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【院長コラム】年度末の診察室から:一人ひとりの「歩幅」で育んだ1年の軌跡

【院長コラム】年度末の診察室から:一人ひとりの「歩幅」で育んだ1年の軌跡|どんぐり発達クリニック|発達障害

こんにちは。院長の藤井です。

2月、3月とカレンダーがめくられるこの時期、クリニックの診察室はどこか特別で、晴れやかな空気に包まれます。

卒園、卒業、そして進級や進学。子どもたちにとって、これまでの生活に区切りをつけ、新しい世界へと踏み出す大きな「節目」がやってくる季節です。今回は、この1年を締めくくる発達外来での、心温まるエピソードをいくつかご紹介したいと思います。

(※患者さんのプライバシーに配慮し、個人の特定ができないよう内容を一部変更して構成しています)

「寝たふり」から「お喋り」へ:心の扉が開く瞬間

1年前の春、初めて診察室に来た時のお子さんの姿を、私は今でも鮮明に覚えています。

その子は、知らない場所や初めて会う大人(私ですね)に対して、とても強い緊張を感じていました。お母さんの後ろに隠れ、椅子に座るとそのまま机に伏せて「寝たふり」をしてしまったのです。それは、彼なりに一生懸命自分を守ろうとする、精一杯のサインでした。

それから1〜3ヶ月おきの定期的な受診を重ねました。診察室では、無理に質問攻めにすることはありません。最近好きなゲームの話を少しだけしたり、お母さんと日常の困りごとを一緒に考えたりする時間を積み重ねてきました。

そして先日、年度末の受診時のことです。

彼は診察室に入るなり、顔を上げて私の目を見てこう言いました。

「先生、あのね。この前、公園でこんな楽しいことがあったんだよ!」

自分の言葉で、自分の楽しかったことを伝えてくれる。その変化に、お母さんも私も、思わず顔を見合わせて微笑んでしまいました。お母さんが「1年前のことを思うと、本当に随分成長しましたね」と目を細めておっしゃる姿を見て、私も胸が熱くなる思いでした。

期待と不安を「言葉」に変えて

年度末の診察室では、新しい環境への「心の準備」があちこちで行われています。

  • 「今度は『生活』っていう授業が、理科と社会に分かれるんだって」
  • 「新しい学校で、友達ができるといいな」
  • 「中学校に入ったら、吹奏楽部に入ってみたい」
  • 「今度から、クラブ活動が始まるのが楽しみ」

新しい世界に目を輝かせて話してくれる子もいれば、一方で「ちょっと心配なんだよね……」と、正直な不安をポツリとこぼしてくれる子もいます。

実は、こうして誰かに「話す」こと自体が、変化に伴う心のドキドキを和らげることにつながります。心の中にある思いを言葉にして外に出すことで、子どもたちは自分自身で気持ちの整理をつけ、一歩踏み出す準備をしているのかもしれません。

学校という場所、それ以外の場所での成長

この1年、すべてのお子さんが順風満帆に学校へ通えていたわけではありません。中には、学校ではなくフリースクールで過ごした子、あるいは自宅で長い時間を過ごした子もいます。

「学校に行けていないから、成長が止まっているのではないか」

そんな風に、焦りや不安を抱えておられる親御さんもいらっしゃるかもしれません。

しかし、外来で定期的にお会いしていると、場所がどこであれ、子どもたちは確実に成長していることがわかります。

・以前より外出できる機会が増えた
・生活リズムが少しずつ整ってきた
・トゲトゲしていた表情が、ふとした瞬間に穏やかになった
・家族との会話の中に、笑顔が増えるようになった

これらはすべて、立派な「成長」です。目に見える派手な成果ではなくても、その子のペースで、その子の土俵で、一歩ずつ地面を踏みしめて進んできた証です。診察室でこうした姿を見せていただくたびに、私の方が励まされ、エネルギーを分けてもらうような気持ちになります。

発達外来とは、何をするところなのか?

時折、「発達外来って、具体的に何をしているのですか?」と聞かれることがあります。

残念ながら、発達外来は「特別な薬を処方して、はい、治りました」という場所ではありません。

私たちは、発達に特性があり、世の中に対して少し「生きにくさ」を感じているお子さんたちが、どうすれば少しずつ穏やかな生活を送れるようになるかを、一緒に考えていくお手伝いをする場所でありたいと思っています。

ときにはお薬の力を借りることもありますが、それはあくまで、本人がより過ごしやすくなるための手段の一つに過ぎません。

一番大切なのは、

・親御さんとの日々の対話
・園や学校の先生方との連携
・地域で療育を担ってくださる方々とのチームワーク
・そして、心理士、作業療法士、言語聴覚士、看護師など、専門性を持ったスタッフ全員で見守る姿勢

これらが組み合わさって初めて、お子さんの「安心感」が育まれます。

最後に

私たちはこれからも、ご家族の皆さんと手を取り合いながら、お子さんの「そのままの姿」を尊重し、診療を続けてまいります。

進級・進学を控えたこの時期、もし不安が大きくなったり、どう接すればいいか迷ったりしたときは、いつでもお話しを聞かせてください。

新しい季節が、皆さんにとって少しでも「楽しみ」の多いものになるよう、心から願っています。

今回のコラムはいかがでしたか? 診察の際、お子さんの「この1年でこんなことができるようになった!」という小さな発見があれば、ぜひ私やスタッフにも教えてくださいね。

 

院長 藤井 明子
記事監修
院長 藤井 明子

北里大学医学部 卒、東京女子医科大学医学系大学院修了、東京女子医科大学病院、長崎大学病院、長崎県立こども医療福祉センター、さくらキッズくりにっく 院長、どんぐり発達クリニック 院長

医学博士、日本小児科学会 小児科専門医、日本小児神経学会 小児神経専門医、日本てんかん学会 てんかん専門医、日本小児精神神経学会 小児精神神経学会認定医、子どものこころ専門医

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