新年度がスタートして数週間が経ちました。新しい環境に親子で一生懸命適応しようと駆け抜けてきた日々かと思います。この時期、診察室では、お子さんの体調だけでなく、親御さんのどこか張り詰めたような表情に触れる機会も増えてきます。
診察の終わりに、私はこんなお話をすることがあります。
「今日、医師としての立場から色々とお伝えしましたが、お母さんが今こうして悩んでいることは、決して悪いことではないし、間違ってもいないですよ。実は、小児科医である私自身も、3人の子どもを育てる一人の母親として、悩み、迷うことの連続なんです」
そうお伝えすると、「えっ、先生だってそうなんですか?」と、驚いたような、少しホッとしたような表情を浮かべられる方がたくさんいらっしゃいます。
「わかっている」と「できる」の間で
私は子どものこころ専門医として、日々多くのお子さんや親御さんと向き合っています。子どもたちが新しい環境でどう心を揺らすのか、どんな接し方をすれば安心感を与えられるのか、知識としては頭ではわかっています。
けれど、いざ我が子のこととなると話は別です。
朝、登校前に子どもが「なんだか頭が痛い」とポツリと言えば、「本当に体調が悪いのかな? それとも学校で何かあったのかな?」と、一瞬で心がざわつきます。ふとした時に子どもにチックの症状が出たり、食卓を囲んでいてもいつもより食欲が少なそうだったりすると、冷静な視点よりも先に、母親としての「心配」が大きく膨らんでしまうのです。
仕事が立て込み、夜遅くに帰宅した日は、「寂しい思いをさせていないかな」「もっとゆっくり話を聞いてあげればよかった」と、胸の奥がチクリと痛むこともあります。私も皆さんと同じように、正解のない問いに揺れ動く一人の親にすぎません。
そんなふうに不安の渦に飲み込まれそうになったとき、私は自分にある問いをなげかけます。それは、「もし、もう一人の自分が小児科医として診察室に座っていたら、この状況に何て声をかけるだろう?」と考えてみることです。
客観的な視点に立ち戻ってみると、答えは案外シンプルだったりします。
「今は新年度の疲れが出る時期だから、ゆっくり休ませてあげれば大丈夫だよ」
「お母さんが頑張って働いている姿を、子どもはちゃんと見ているよ」
そう自分に言い聞かせることで、ようやく肩の力が抜け、冷静さを取り戻すことができます。自分のこと、我が子のことになると、私たちはどうしても視界が狭くなってしまうものです。だからこそ、自分の外側に「冷静な視点」を置いておくことが、心のチューニングには欠かせません。
「自分のせい」にしてしまう優しい親御さんへ
学校や園の先生から「お子さんのこんなところが気になります」と指摘されたり、周りの子とうまく馴染めていない様子を見たりすると、真面目で優しいお母さんほど「私の育て方のせいかしら」「あの時の関わりがいけなかったのかも」と、自分を責めてしまいがちです。
でも、どうか覚えておいてください。
悩んでいいんです。迷っていいんです。それだけあなたが、お子さんのことを大切に想っている証拠なのですから。
子育ては、一人で完結させるものではありません。私たちのような医師や、心理士、作業療法士、言語聴覚士、看護師、そして園の先生、学校の先生やスクールカウンセラー。色々な人に相談し、ときに弱音を吐きながら、少しずつ「冷静さの目盛り」をチューニングしていけば、それで十分です。
完璧な親を目指す必要はありません。
「今日一日、この子の安全を守ってあげられた。一緒にごはんを食べて、夜を迎えられた」
それだけで、もう100点満点なのだと私は思います。
焦らず、一歩ずつ
新年度、もし当初思い描いていたような「理想的なスタート」が切れなかったとしても、大丈夫です。道は一つではありませんし、休み休み進んだっていいのです。
このコラムが、毎日頑張っている皆さんの心を少しでも軽くするきっかけになれば幸いです。
一人で抱え込まず、気になることがあればいつでも診察室で教えてくださいね。私たちは、あなたとお子さんの歩みを、これからも一緒に見守っていきます。

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