どんぐり発達クリニックは、宮沢賢治の「どんぐりと山猫」のイメージから始まりました。
それはこんな話です。
ある秋の土曜日、一郎少年のもとに、下手くそで間違いだらけの文で書かれた怪しいはがきが届くところから物語がはじまります。はがきの内容は、「面倒な裁判があり、ぜひ出席してほしい」というもので、差出人は山猫となっていました。一郎少年ははがきを秘密にし、一人で大喜びします。翌日、一郎が山猫を探しに山へ入ると、山猫が登場し、どんぐりが集まってきて裁判が始まります。どんぐりたちは誰が一番偉いかという話題で争っていました。大きさや形は皆違いますから、一郎は山猫に“一番ばかでめちゃめちゃで、頭のつぶれたようなのが一番偉い”、という法話を耳打ちし、知恵をつけて助けます。大きさや形など何の意味もないということをいっているわけです。山猫が判決を下すと、一瞬にしてどんぐりたちの争いは解決しました。山猫は、一郎への謝礼として、塩鮭の頭と黄金(きん)のどんぐりのどちらかを選ばせ、一郎が黄金のどんぐりを選ぶと白いきのこの馬車で家まで送ってくれました。家に帰ると、黄金のどんぐりは色あせて茶色の普通のどんぐりとなり、そして二度と山猫から手紙はこなくなってしまいました。
この話からイメージをえたのは、宮崎駿監督も同じでした。
トトロの原型になっているのは、宮沢賢治の「どんぐりと山猫」のあるシーン、裁判の場面でしょうか。
ぼう然と立っている山猫の足元でどんぐりがキーキー言っているシーンから宮崎監督が受け取った強烈なイメージが、「となりのトトロ」のインスピレーションの源になっているのです。
個々の違った特性(大きさ、形)を持つドングリの実のような子供たちが大人になっていく過程をサポートし、大きなオークの木に成長できるように、という思いから「どんぐり発達クリニック」は始まりました。小さかったり、形がゆがんでいても、みな立派なオークの木にきっとなれると思っています。
「小さなどんぐりから大きなオークが生まれる」という思いが世界共通であるということに、ある時気づきました。この言葉は、イングランドの “英詩の父”と呼ばれる大詩人、ジェフリー・チョーサー(1343ー 1400年)が最初に記し、ノーベル化学賞を受賞した鈴木章と根岸英一両氏は、米パデュー大学 ハーバード・ブラウン博士の座右の銘であるこの「TALL OAKs Grow LITTLE ACORNs(大きな樫の木も小さなドングリから)」という言葉に大きな感銘を受け、根岸教授はこの言葉に研究の原点を感じ、アメリカ移住の決意をしたといいます。この博士の座右の銘は、再三博士の著書にも登場し、愛用していた置時計の台座にも刻まれ、今でも大学に飾られています。
「小さなどんぐりから大きなオークが生まれる」という子どもへの思いはみな同じだと思います。 どんぐり発達クリニックは、このような思いからはじめた発達障害の子どもと家族のためのクリニックです。西洋医学に東洋医学を加え、小児科、小児神経科、児童精神科、精神科、リハビリテーション科の立場に加えて薬理学、栄養学など、いろいろな立場からアプローチしていきます。 そのための専門家集団として存在し続けていきたいと思っています。